またオーディオ用ルーターが発売されたようです。
Ediscreation、接地絶縁スイッチ搭載のオーディオ用ルーター – AV Watch
前回の記事ではあまり否定的な意見は書かないようにしていたのですが、今回は厳しめに。
前回の記事ではなんでこんなネットワークの組み方をさせようとするんだろう?無駄なことしてるなあ、けど高価なものだから何か理由があるんだろうなあ、と思っていたのですが、どう考えても正当な理由が思い浮かばず、AIに聞いてもルーターの仕様が良くないとしか言ってもらえないので…。
オーディオ用二重ルーター
余計な通信がオーディオ機器に届くのを防ぎ、負荷を下げ、音質UPをはかるもの、ということなのですが、前回の記事で実際余計な通信が届かなくなることは紹介しました。
オーディオ用ルーターはオーディオ用に特化していて、無駄なことを一切しない静かなネットワークを作る…と主張したげですが本来不要な余計なことを2つしています。1つはNAT、もう1つはアクセスポイントの追加です。
ネットワークの隔離の簡単な成立を優先していて、利便性や負荷は犠牲にしているといっていいでしょう。無駄な処理をしているので、ルーターの負荷が音質に影響すると考えるのであれば、オーディオ用として最適なものとは思えません。
今回の製品も「基本的にはRoon ARCは使えなくなる」と記載されています。基本的に、という言い方が気になりますが(マニュアルが公開されてないので何とも言えません)、本来ネットワークはそんな都合の悪いものではありません。余計な通信を遮断したまま、Roon ARCを使えるようにする、というのはルーターで理論上可能です。
一応擁護しておくと製品として売る場合は簡単でないといけないので、初期設定が2重NATなのは仕方ないと思うのですが、カスタマイズ製がなさすぎるというか、無駄を落とせないようになってるというか。
ルーティングテーブルを設定できる人/環境なら2重NATはデメリットでしかないので、せめてそれは切れるようにしてほしいですね。今回の製品もNATを切れるのであればRoon ARCが使えるし、ルーターは余計な仕事が減るし、アプリによってはアクセスポイントの追加も不要になるし、いいことしかありません。
クロックについて
良質なクロックを積んだルーターやスイッチングハブを使うとジッターが低減されて音が良くなる、という説明を見かけますがなんかモヤモヤする表現です。今回の製品もOCXO搭載をウリにしています。
一般的なオーディオではLANケーブルにMCLKをのせてトランスポーターやDACに送るわけではないので、ネットワークのクロックはDACのクロックとは直接関係がありません。
回線速度測定サイトなどで測定されるようなジッターにも影響がありません。あれはPingのゆれ、パケット到着タイミングの揺れを表しています。クロックで改善するのは1ビットの波形のジッターです。Layer3とLayer1の違いといえばいいのかな。
クロックの良いハブを使って綺麗な波形で送れば受信側のNICの負荷が下がって電位が安定してDACへの送信の質が良くなって結果的にオーディオのジッターも改善…はありえなくもないですが、それくらい間接的な影響になります。
綺麗な波形で送ればエラーも減って安定するのでは、とも考えられますが、安物のハブでも家庭内LANの通信程度ではまずエラーは起こりません。
OCXO搭載をウリにしていますが、私からしたらそんな高温維持前提のものをルーターに乗せるな、むしろマイナスだ、としか思いません。
プロトコルについて
LANケーブルを使って音声データを送信する際のプロトコルでメジャーなのはRoonのRAATでしょうか。最もネットワークの質に影響するのはDirettaになるでしょうか。
今回はDirettaで高音質にするためのネットワークを考えてみましょう。
Direttaは、大きな塊のデータを一気に送るのではなく、小さくてタイミングのそろったパケットに小分けして送り、受信側NICの負荷を一定にすることを目標にしているようです。ドライバの設定で分け具合を設定できるようです。
以前はUDPを使っていましたが、今はIPレスになったようです。Layerでいうなら2~の最適化を目指してると考えていいでしょう。パケットと呼ぶより、フレームと呼ぶ方が正確かもしれませんが、今回はパケットで統一します。
ではDirettaを理想的に動かすネットワークはどんなネットワークなのでしょうか。

ショップ等でよく見かけるこういうネットワーク図はよくないです。Diretta Host – Target 間の通信と、Diretta Host – その他機器間の通信を同じNIC/LANケーブルで処理することになります。

例えばSpotifyやNASから音楽を再生するとしましょう。通信はTCPです。TCPのダウンロードの際には同時にACKの送信を行います。サーバーへのACKの送信と、Diretta Targetへのデータの送信を同じNIC/LANケーブルで処理します。スマホのアプリで操作していたらそのレスポンスも同じNICから行います。
今時のLANは全二重なので、受信と送信を同時にやることはできますが、複数の宛先に同時に送信しようとすると処理の競合は当然発生します。
これはDirettaの「小さくてタイミングのそろったパケットに小分けして送る」ことを阻害します。HostのNICが1つだとそこがボトルネックになるので、どんなアクセサリを追加しようが頭打ちです。

ではどうするのが良いかというと、こんな風にDiretta HostにNICを追加するか、そもそも2つあるものをHostとして、HostとTargetを直結してしまえばいいです。
diretta [SOtM docs] これはSOtMのHPにも記載されています。

こうすることで、Diretta Host – Target間の音楽データしか流れないネットワークと、それ以外のデータが流れるネットワークにわけられます。これの利点は複数あって
- 音楽データ受信の負荷と音楽データ送信の負荷を物理的に分けられる
- 他のデータ通信と競合しなくなるので音楽データの送信に専念できる
- Diretta Targetが別のネットワークになるのでブロードキャストが届かなくなる
1番目はLayer1の改善、2番目はLayer2~の改善でしょうか。3番目はオーディオ用ルーター導入で得られる効果と同じです。Diretta TargetがNASなどとも別ネットワークになるので、より効果大です。
また、Diretta Hostの受信側は家庭内ネットワークになるため、普通にスマホ等からアクセスできます。アクセスポイントの追加も不要ですね。
オーディオ用ルーターだと1番目と2番目の効果は得られない上にノイズ源のアクセスポイント追加が必要になる場合があるので、NICの追加がルーター追加の上位互換みたいなものなんですね。なので何万もかけてオーディオ用ルーターを買うくらいならまず3000円でNICを追加する方を推奨します。
NASやインターネットからのデータ受信と、Diretta Targetへのデータ送信は完全に非同期です。ガッとダウンロードしてキャッシュにためて、そのデータをデコードします。音楽データ受信と送信のNICを物理的に別に分ければDiretta Hostの受信側のネットワーク品質の影響力は非常に低くなります。
なので受信側のネットワークの品質は割と適当でよくなります。重要なのはDiretta Targetに余計なパケットを送らないこと、綺麗なパケットを送ること、綺麗なタイミングで送ること、です。
Diretta TargetのNICがどうなるか、Diretta Targetへ送る側のHostのNICが最優先です。
ということで、もしLANのクロックが良い方が音が良くなると考えるのであれば、クロックをよくするべきなのは圧倒的にDiretta Host – Target間ということになります。なので、オーディオ用スイッチングハブでリクロックして音質向上!と考えるなら接続は

こうじゃないんですね。

こっちの方がいいでしょう。オーディオ用スイッチングハブの前にオーディオ用LANカードの導入の方がいいかもしれません。(検索したらあってびっくりしました)。
JCAT NET Card XE EVO | オーディオ,ノイズ関連パーツ | OLIOSPEC
例えばこんなのは2ポートあるので、受信用と送信用にそれぞれ使いたくなってしまいますが、送信用にのみ1ポート使い、受信用はマザー標準のNICを使った方がLayer1レベルでの分離はよくなるんじゃないでしょうか。2ポート用意しない方がむしろいいような気がします。
あとスイッチングハブの追加によるリクロックはLayer1レベルでは改善の可能性はありますが、Layer2以降の「小さくてタイミングのそろったパケットに小分けして送る」ことにはプラスよりもマイナスに働くでしょう。パケット自体は綺麗になるけど、パケットのタイミングはどちらかというと乱れるイメージですね。
あとはPCのレイテンシをできるだけなくすようにハードとOSの設定を詰めることでしょうか。「小さくてタイミングのそろったパケットに小分けして送る」ためにはPCの反応の速さが必要です。
NICの設定でもNICによってはレイテンシ優先にできる場合があります。
オーディオ用NAS
オーディオ用NASにはNICを2つ搭載したものがあります。
例えばこんなのですね。私の主張に沿ったいい製品に見えるかもしれませんがそうでもないです。マニュアルを見ると、「ブリッジモード」か「アイソレートモード」がありますが、ブリッジモードの場合は2つのポートが同じIPアドレス/ネットワークになってしまうので、ブロードキャスト/マルチキャストの遮断効果が得られませんし、通信の独立性も弱くなります。
アイソレートモードだとルーターと通信できなくなるようです。ストリーミングサービスもスマホでの操作もできなくなります。
いい感じに両方のNICを使えるNASはどうやらなさそうです。
オーディオ用ルーター別パターン
RoonやDirettaのように2つの機器にわかれるものはNIC追加でいいのですが、そうではない単体のネットワークプレイヤーで隔離しようとしたらルーター追加がやっぱり楽です。する必要があるかはともかく。
世間で売られているオーディオ用ルーターは2重NATで別セグメントを作ってネットワークオーディオ機器に不要なブロードキャストやマルチキャストを届かないようにしています。
ブロードキャストやマルチキャストの遮断は、別セグメントにわけても遮断できますが、ブリッジフィルタでも遮断できます。そちらで遮断でもいいんじゃないでしょうか。
LANポート1を192.168.1.0/24、LANポート2を192.168.2.0/24にわけるのではなく、LANポート1もLANポート2もブリッジして192.168.1.0/24で運用するけれど、LANポート1→LANポート2のブロードキャストとマルチキャスト遮断のフィルタを入れるということです。
更に、特定のIP/MACアドレス(アプリ操作用のスマホやタブレット)のみ通過を許可してしまえばアクセスポイントの増設も不要です。
ただこの場合はスマホのIPアドレス or MACアドレスの登録のようなちょっと難しいかもしれない作業が必要になりますし、ルーターの負荷がNAT並に増えるかと思われますので、いいことばかりでもないです。
アプリの仕様がネットワークプレイヤーにIP指定でアクセスできない&どうしてもアクセスポイントを追加したくない人向けでしょうか。
|
1 2 3 4 5 6 |
firewall-cmd --direct --add-rule eb filter FORWARD 0 -i <NIC:A> -o <NIC:B> -p arp -j ACCEPT firewall-cmd --direct --add-rule eb filter FORWARD 0 -p IPv4 --ip-proto udp --ip-dport 67:68 -j ACCEPT firewall-cmd --direct --add-rule eb filter FORWARD 0 -p IPv4 --ip-src <スマホのIP> -j ACCEPT firewall-cmd --direct --add-rule eb filter FORWARD 0 -s <スマホのMACアドレス> -j ACCEPT firewall-cmd --direct --add-rule eb filter FORWARD 10 -i <NIC:A> -o <NIC:B> -d Broadcast -j DROP firewall-cmd --direct --add-rule eb filter FORWARD 10 -i <NIC:A> -o <NIC:B> -d Multicast -j DROP |
一応firewalldで自作ルーターなブログでもあるので、firewalldで書くとこんな感じでしょうか。IPかMACアドレスかはお好みの方で。
ARPは通す、DHCPサーバーへのアクセスも必要なら通す、特定の操作用端末は通す、それ以外のブロードキャストとマルチキャストは遮断、ですね。特定の端末の特定のマルチキャストだけ通す、などもっと切り詰めた設定も自在にできます。
YAMAHAのルーターなんかでも同様のことができるはずです。VLAN切ってセグメントを分けて遮断するか、L2のブリッジフィルタで遮断するか、アプリの仕様次第でどちらか選べばいいでしょう。
どういう風にネットワークを組むべきか
Direttaであれば前述の通りHostのNICを2つにしてネットワークを分けるのが一番いいです。ルーターの優先度は圧倒的に低いです。設定難易度も低めです。設定例も前述の通りあります。
Roonもそれでいいと言いたいのですが、Direttaほど簡単ではないですし、Ready側の仕様にも左右されるでしょう。
DirettaでもRoonでもない、単体のネットワークプレイヤーの場合は、ネットワーク分離を簡単にたいならルーター追加でもいいかもしれません。
ネットワークプレイヤーを操作するアプリの仕様も大事です。IPアドレスを指定してネットワークプレイヤーにアクセスできるアプリもあれば、ブロードキャストやマルチキャストを利用してネットワークプレイヤーを探すアプリもあります。
IPアドレスを指定してアクセスできるアプリであればアクセスポイントの追加は不要にしやすいです。ポートフォワードを設定できるルーターか、NATをオフにできるルーターなら不要にできます。
ブロードキャストやマルチキャストを活用するタイプだと前述のブリッジフィルタで組むか、マルチキャスト転送などができないと、アクセスポイントの追加が必要になります。
| NAT解除 | ポート転送 | |
| Taiko Audio Extreme Router | ×? | 〇 |
| Synergistic Research Router UEF | 〇? | 〇 |
| Ediscreation NET Silent | 不明 | 不明 |
| TOP WING Data ISO BOX | × | × |
マニュアル等調べてみた感じの各社の仕様。ネットで簡単に確認できるマニュアル等で判断してるので実際は違うかもしれません。
参考ブログ
さて、ここまで好き勝手書いてきましたが、オーディオ愛好家の皆様はどう設定してるのでしょう?気になってみたので色々検索してみました。
このお二方の方針はほぼ私と同じでした。該当記事は
- 【Diretta】専用ネットワーク構築 LAN ポート分離で激変! : まいまいオーディオ Blog – 中古で揃える!オーディオ & PCパーツ
- Diretta伝送LANの隔離効果とQobuzストリーミング環境への適応 | No Youtube Music, no life
この辺でしょうか。Diretta HostのNICを2つにする、なぜそれがいいか、2重ルーターは効果が感じられない、などなど。内容完全にかぶってるので私がこんな長々書く必要なかったのでは…。Direttaの設計思想とネットワークの基本に沿って考えれば被って当然なのかもしれませんが。
ネットワークの改善により、Diretta Driverの設定という客観的指標の改善が認められたことも記述されています。主観評価だけじゃないのがいいですね。
Diretta HostのNIC分けたらTargetとの接続用のNICはMTUの設定を変えちゃっていいってのはちょっと目から鱗でした。
まとめ
前回は否定的なことは書かないようにしてたのですが、今回はちょっと否定的に。
オーディオグレードルーターは設定の簡単さを最優先にしていて、通信の最適化を追求してないので、妥協のネットワークが作られます。
繰り返しになりますが、製品として成立させようとすると初期設定がそうなってしまうことは仕方ないです。カスタマイズ製が低いのはよくないと思っていますが。
ちゃんとしたネットワークを作ろうと思ったら、今のところ結局どこかしら手動で設定しないといけませんし、ある程度知識が必要です。
無駄を省いた静かなネットワークを作ります!と言いながら無駄にヘッダ書き換えてテーブルを管理しなければいけない2重NATをされても、「はあそうですか」にしかならないじゃないですか。
WiFiはノイズ源なのでWiFiがないルーターを発売します!と言いながら、操作用に別途アクセスポイント追加してくださいと言われても、「はあそうですか」にしかならないじゃないですか。
NICを2つ搭載したDiretta Hostとして使えるオーディオ用NASみたいなのが発売されればDirettaユーザーならそれ1つあればいいよ、になるかもしれません。ちょっと検索した限りではまだなさそうです。


コメント